ガソリン版ProRacing OBD Tuning boxを専門家が検証

車両診断ポートに挿すと「CAN通信機能に割り込むことで、主に空燃比を変更」して「特に低中速域でのパワーとトルクを向上し、シャープでトルクフルな走り」(販売代理店サイト)をするようになるという素晴らし装置、ガソリン版“ProRacing OBD Tuning box”を小西凡人さんらかお預かりしました。記事掲載時、税込標準価格39,600円。

小西さんによるとうちで3年前に調べた同名の製品は“ディーゼル版”なのだそうです(該当記事のタイトルには今ほど追記しました)。どこが違うのかわくわくしますね。

計測

まず本体・ハーネスをつないでOBD2コネクターの電源部に12V入力し、CANやK-Lineなど一般的な通信端子の電圧を調べました。

通常CANは2.5V±α、K-Lineは電源電圧か0Vですが、多くの端子が0.5V程度をフラフラしています。誤動作防止のため入力端子を浮かせてはいけないという回路設計のお約束には沿ってない感じ。

ProRacing OBD Tuning boxのCANにターミネーターを接続しPCから通信を送ってみたところずっとエラーでした。全く受信してくれません。

ちなみに電源投入中はこれぐらい斜めにすると、何らかのスイッチ用の穴からうっすら赤色LEDの点灯がわかります。電源による見た目の違いはここだけ。

分解

“ディーゼル版”は全周シールだけの固定でしたが、こちらはトルクスT6。

D-Sub9ピンコネクターのシール“PETROL”は、英国でガソリンのことだそうです。

先の“ディーゼル版”基板とはケースねじ穴の関係でいくつかの部品位置が多少違いますが、回路的には全く同じといっていいでしょう。

電源を入れたときの(通常見えない)LEDの点灯動画をどうぞ。頑張って通信してる感じですが見ての通り電源しかつながっていないことがポイントです。途中で謎ボタンを押すと点灯がリスタートするのでこれはマイコンのリセット機能でしょう。

常識的にはありえない回路なので“ディーゼル版”の調査時には気付きませんでしたが、電流制限抵抗とセットのはずのLEDがすべて5Vのマイコン出力に直結されています。オシロスコープで見てもPWM(ONとOFFを高速で繰り返す仕組み)ではなく、点灯中のLEDは赤2.2V、青2.4Vでした。5V出力からマイナスした残りの2.6V以上をマイコンの保護抵抗にかけるというぶっとんだ設計です。次の写真でもわかりますがずっと点いてる両端のLEDは変色しており、相当頑張らされていたもよう。ただこういう手抜き設計でも動くものなんだなあと他意無く勉強になりました。

使用されているマイコンは表面が入念に削られており型番は読めませんが、“ディーゼル版”と同じMicrochip PIC16F59でしょう。

そんなわけで考察は同じ回路の“ディーゼル版”の記事をご覧下さい。

つまりこれは何らかの通信ができる回路ではありません。

バッテリーには厳しい電流

電流はLED点灯状態により約62〜98mAでした。

一般的なクルマの暗電流は50mA前後なので、ProRacing OBD Tuning boxを接続したキーオフ中は、通常の倍以上の速度で(見えないLEDのために)バッテリー電力が消費されることになります。

小西凡人さんがこの装置の使用をやめたのは朝イチでのエンジンのかかりが悪くなったことがきっかけだったそうで、なっとくです。3,4日クルマに乗らないときは外した方がいいでしょう。

黒ケースで内部LEDが見えない理由

海外では透明ケース版があるのになぜわざわざ黒ケースにしたのか疑問でしたが、点灯・点滅するLEDが吐き気がするぐらいまぶしいので、特に夜間の運転でこの光が目に入ったらほんとうに危険ですし、停止中もこれがずっと点いていることをユーザが知ったら不安がるだろう、という代理店の気遣いかもしれません。

ただそういうことなら最初から電源をつなげない回路にしていれば、LEDはまぶしくないし、バッテリー上がりに気を使うこともないしで、なお良かったと思います。

総括は、調査結果に対する小西凡人さんの「やはり、OBD2に差すだけで性能アップなんて美味い話は無いのですね」というご感想ですねほんと。

これまでに調べたOBD2チューニング系パーツ

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