さすだけで35%パワーアップ!? nitro OBD2を専門家が検証

クルマのOBD2診断ポートにさすだけで「35%パワーアップ」「25%トルクアップ」というすばらしい装置がたったUS$3で購入できました。正確には送料込み$2.89です。1996年以降の(OBD2装着)車両全部に対応し、200km走行でドライバーのクセからECUリマッピングすると書いてあります。超絶テクノロジー! また購入した AliExpress の説明には簡易通信機器の定番IC “ELM327” の表記もありわくわくがとまりません。

営業車のランサーエボ10をパワーアップさせちゃう前にまずは机上でCANの通信モニターをしました。単にダイアグクリアまたは様々な学習初期化のコマンドを送り続けてるだけなのでは?という浅はかな疑問を払拭するためです。

、、、CANではなにも出力されてないよ。

そうかインタフェース確認のためにダミー通信が必要なのね、ということでてきとーなデータを既定の速度で送ってみました。最近多い内部通信がゲートウェイで止められる仕様のクルマもOBD2ポートにはなにも出力されませんがとりあえず無視します。

あれ、通信エラー。。。

どうもこの装置、通信とかそんな細かいことじゃない、想像も付かないような先端技術がつまっているようです。

ここで改めて、机上での起動シーンを動画でどうぞ。

なんかちょー“通信”してます! 電源しかつながってないのに!!

このすばらしいテクノロジーを少しでも理解したい一心で、超音波カッターで分解してみました。

基板は2階建てになっていて、上部にはLEDとマイコンのリセットスイッチ、電源ICなどがあります。ここは普通ですね。

さてその裏面。右下の端子郡はOBD2ポートにつながるCANやK-LINEなどの通信ラインで、これらがマイコンに接続されています。

が、残念ながらこれは通信ができる回路ではありません。ひょっとしたらK-LINEの受信はできるかもしれませんが送信回路が無いので意味無し。CANについても、写真のマイコン(Microchip PIC16F59)の場合コントローラーとトランシーバーのICが別に必要ですがどっちも載ってないので不可能です。常識的にはCANを扱う電子機器にこのマイコンは選択しません。また商品説明にあった通信用 ELM327 相当のICも見つからず。

つまりニトロOBD2はECUに対して何もしていません。

ではなぜマイコンにつながっているかですが、想像では各種通信線の電圧変化でECUの通電状態(キーのオンオフ)をチェックしLEDの点灯を変えたいからじゃないかしらん。OBD2ポートの電源は(基本的に)常時供給なのでこれで始動状態を見ることはできませんからいいアイデア(※)。どうでもいいので未確認ですけど。

追記:  …と思ってましたがちっとも“いいアイデア”じゃないです。通信ラインに規格外の電気をつなげて良いわけありません。最悪の場合、通信異常でエンジンECUをはじめとする電装品が走行中などに停止または誤作動を起こします。

細かいことを言えば、12Vの信号線を抵抗1つで5V電源のマイコンにつないじゃうことや、水晶発振子(左下 / 正確なタイミングを取るための素子)に負荷容量となるコンデンサが付いてないのは感心しません。まあ水晶発振子はLED点滅させるだけなら(マイコン内蔵の簡易機能が利用できるため)不要なので、それっぽい見た目のためにただ載っているだけかもしれませんけど。あと、半分以上の端子が未接続のマイコン自体もっと小さいサイズのもので充分ですからこれも見た目用でしょう。

以上まとめると、この装置が行うのは

あなたのハートにニトロをインストロールよ!
(`・ω・´) キリッ

$3のイルミネーションとしては大変よくできています。ただそれ以外の用途には不適です。

ECO OBD2(調査済) なる色違いの製品もあるようですが画像検索によると内部のつくりは同じなのでこれもイルミネーション用ですね。

また ProRacing OBD(調査済) や DME TUNE など数万円するOBD2の装置もあるようです。こういった装置をお持ちで動作が気になっている方がいらっしゃいましたら、お貸しいただければ無償で通信と回路をお調べします(解析結果は当ブログにて公表します)。ご連絡ください。

これまでに調べたOBD2チューニング系パーツ

ココアシステムズではライフワーク(?)として通信系の燃費改善・パワーアップパーツの解析を無料で承っています。国民生活センター公正取引委員会からのご相談・資料提供依頼にも無償協力します。いずれもフォームからお問い合わせください