開発元RGCのウェブサイトによると、”Up to 35% power increase”(最大35%のパワーアップ)、”Up to 25% more Torque”(最大25%のトルクアップ)、”Fuel consumption improvement up to 1 liter per 100 km”(100kmあたり最大1lの燃費改善)など、クルマの診断ポートに挿すだけで様々なありがたい効果がある “ProRacing OBD Tuning box” という装置を読者の高橋さんからお借りしました。記事掲載時、直販価格€139(1万7千円前後)、楽天市場では3万5千円〜のようです。

この製品は最初に登録したVIN(車台番号)の車両でしか動作しないようになるらしく、つまりそれはONごとにVIN確認の通信をしているということで、うちでいつも使う通信解析装置を接続し車両と同じように電源を入れてみました。が、なぜか何も記録されません。

CANをオシロスコープで見てもこの通り。

電圧計によるCAN High/Low、K-LineそれぞれのGNDとの電位差は1V前後をふらふらしていました。通常CANはHighが2.5V+α、Lowが2.5V-α、K-Lineは電源電圧12Vか0Vなのでありえない値です。

ヒートガンであぶりながら包装のシールでとまっているだけのケースを分解し基板を見てみました。

通信装置とは思えないシンプル回路です。左はOBD2への配線、右はLED群ですがケース装着時には全く見えません。無意味な基板ロゴもありますし、透明ケースに入れるはずだったんでしょうかね。

動画はありませんが、電源を入れただけでLEDが点灯し始めました。OBD2は常時電源なのであんま乗らないクルマだとバッテリー上がりがちょっと心配ですね。

基板中央の唯一のICは刻印が削られておりどういったものか全くわかりません。

が、画像をいじっていたらうっすら浮かび上がってきました(驚)。Microchip PIC16F59 のようです。

プログラムを書き込むためにつけられたと思われるポートにこのマイコンのデータシートを見ながら通信装置を接続します。プログラムにはプロテクトがかかっていましたが通信自体は成功しました。ちなみに端子右から以下の通り。

・MCLR
・Vss
・Vdd
・CLOCK
・DATA

やはりこれは Microchip PIC16F59 で、それからわかるのは、この回路にこのマイコンでは CANもK-Lineも通信できるわけが無いということです。

またそんなこと(?)よりさらに衝撃的なのは、回路が 過去に$3で購入して調べた Nitro OBD2 と同じだったことでした。マイコンももちろん同一。

先ページ掲載のNitro OBD2基板画像を半回転したものですが、マイコン左はOBD2ポートに、下の方は反対面のLEDにつながっており、そのピン位置はProRacing OBDと全く一緒。右上の水晶発振子(クリスタル)は形状こそ違うものの4MHzで同一です。ちなみに先の通信でわかったことですが内部的にはたぶんこの水晶発振子は無効にされています。つながってるだけっぽい。

電源を入れただけで始まる”いかにもなんか通信してる感じ”なLEDの点灯パターンもそっくりでした。

ProRacing OBDとNitro OBD2が”たまたま偶然”同じ回路・同じ動作になっちゃったのか、どっちかまたはどっちもが複製なのか、回路図とプログラムが出回っていて誰でも作れるのか、気になるところですがどう考えるかは読者におまかせします。ただ$3のNitro OBD2は分解しなくても(細い棒で)スイッチ押せるし、LEDも見えるので、価格分は楽しめるかもしれませんね。

そうそうユーザーブログなどに、ProRacing基板上のタクトスイッチを押せば登録されたVIN(車台番号)がクリアされ他の車両でも使用可能になるという”裏技”が書かれていましたが、スイッチが接続されたマイコンの端子(MCLR)はプログラムが暴走したときなどにリセット(再起動)させるためのものです。そもそもVINの読み出し自体なされていないことを含め、これを押すことに意味はありません。

あと細かいとこではメーカーページに “Atmel Processor ( 20 Mhz)”と書かれているのも気になります。Atmel社は2016年Microchip社に買収されている(今はもう無い)ので無関係ではありませんが、もとはPIC系統とは全然違うAVRというマイコンを開発していました。また調べられた範囲だと買収よりずっと前の2008年にはPIC16F59はMicrochipから発売済みでした。そういうわけで断じて”Atmel Processor”ではありません。また20MHzはPIC16F59仕様上の最大動作周波数ですが、動作倍率を変えられる機能が無いPIC16F59ではこの基板だとどうやっても4MHz止まりです。

高橋さんのお言葉を借りればこの製品は

使用者の夢と希望が詰まったタダの箱

ですね。その他の用途には不適です。

 

解析協力 : 高橋さん
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