RECSが効かないBMWエンジンの吸気バルブ洗浄 その1

直噴エンジンの吸気バルブの汚れは、手軽な洗浄系ガソリン添加剤では落とせません。ガソリンがそこに当たらないためです。もちろん自動車メーカーも汚れにくい仕組みを開発してきているでしょうが、ついてしまった汚れはどうしようもありません。

そこでBMWエンジンでの吸気バルブ洗浄について検討し、7シリーズ G11 直6 直噴 B58エンジンに比較的安全で多少効果がありそうな方法を試します。

※ このブログは、BMWにRECSは効果がある!という個人やショップの主張・信仰を否定するものではありません

バルブ洗浄のいくつかの方法

ブラスト

細かいくるみをバルブに向け高速で打ち付け汚れを落とすウォールナットプラスト(残骸は燃える)やドライアイスブラストがあります。くるみの方は整備書記載のBMW標準サービス。

作業はブラストノズルをバルブに向けるためインテークマニホールド(インマニ)脱着がセットで、さらにB58エンジンはそこに冷却水が通っているため、費用と時間がまあまあかかります。

欧州車を施工してくれるショップを探すのもまんどくさく、BMWディーラーは費用がぶっ飛んでそうなので依頼したくありません。

エンジンコンディショナー

吸気バルブに直接エンジンコンディショナーを噴射できれば高洗浄力・安価・簡単ですが、これもインマニ外しがネック。

代わりに、クランクを回して吸気バルブが開いたところに点火プラグの穴から洗浄泡を注入してバルブ裏側へ押しやる方法を考えました。

この方法は別ページにまとめましたが、結構大変な作業です。

WAKO’S RECS

点滴のような器具を使いインマニ負圧で洗浄剤をエンジンに吸い込ませる、白煙モクモクでおなじみのWAKO’S RECSは、効果はさほど期待できませんがお手軽。こんなんで硬いカーボンがずるんと落ちたらエンジンオーバーホール業者は喜び狂うでしょうし、危険すぎて一般販売できません。同様の負圧吸引式洗浄製品にバーダル DACもあります。

インターネットで入手できるRECS洗浄剤注入器があればDIYも可能で、3リッターエンジンならRECS 1缶で3回ちょっと使えます。初回セット2まんえん弱といい値段になるので費用と効果のあんばいはかなり微妙。

とはいえ準備したんですけどね。

普通の点滴では間違って身体に空気が入るのを防ぐ“タコ管”ですが、RECSでは穴があり、負圧でそこから空気を吸わせ洗浄剤とかき混ぜ粒状に出す、キモとなる部分です。そう細かくなるとは思えませんが、単にボタボタ落ちるよりはずっと効果的でしょう。そのうち再現予定。

ただこれは一般的なエンジンの場合で、後述のようにBMW(など可変バルブリフト機構搭載)エンジンは吸引力がわずかなのでこの効果がほぼなく、吸気穴を塞がないと洗浄剤が吸われないかもしれません。そうしてゆっくり落ちて溜まった洗浄剤は、はたして都合良く全ポートに等しく届くのでしょうか。

RECSの効果的な使い方は、インマニ近くでなるべく粒状に放ち(BMWでは無理)、それなりのエンジン回転で吸気流速を上げ遠くのポートにも吸わせることでしょうか。ただ後者は、早く排出されることで使用量に対する洗浄効率が悪くなり、回転数も基本的にはヤマカンしかありません。施工中に全吸気ポートをスコープで観察するか、もしくは全排気ポートにA/F計付けます?(笑)

逆に負圧・流速が低い、または単に排出量を多くしRECSをインマニに溜め、そのあとエンジン回転を上げれば白煙の完成。これは失敗か手抜きか陰謀で、水蒸気にするなら水を入れても同じです。識者に教えていただいた主成分のブチルセロソルブ(※)は有害・有毒で、未燃焼で排出されたミストは人・ボディー塗装・樹脂・ゴム類の寿命を縮めるでしょう。

※ 2-ブトキシエタノール、2-n-ブトキシエタノール、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル

なおB58インマニのスロットル付近の穴では、すぐそばの水冷インタークーラー下部に段差があり、奥に向かってインマニ下面が上がっています。吸気流速を高くし、ここに垂らしたRECSがインタークーラーに張りつけば真横のポートに届くでしょうが、ボトボト溜まったものは段差のない奥の6番に流れるのが精一杯。それも叶わなかった残り汁はエンジン停止後、手前のスロットルを抜けターボ側に落ちると。

ということで購入したRECSセットはそのまま売却しました。

PITWORK エンジンリフレッシュ

20分ほど吸気管にスプレーすることでエンジンに吸わせる仕組みで、これはインマニ圧に関係無くBMWでも使えそうです。NUTEC NC-121も。RECS同様、効果はあまり期待できません。

ただ霧状で噴射されるとはいえ、吸気流速を上げても経路をべちゃべちゃにする分が多く、効率は悪いでしょう。回転するターボの羽根に液体を当てるのもいやん。RECSと同じ主成分のブチルセロソルブは配管類を溶かすことがあるという先の識者の助言もあり、そのまま使うのはやめました。PITWORKにある程度の大丈夫感はありますが、洗いたくもないパーツの高リスクに挑むのは無意味です。

BMWエンジンの事前調査

インマニ負圧がほとんど無い

BMWエンジンはスロットルによるポンピングロス(吸気損失)を嫌い、可変バルブリフト機構(バルブトロニック)で吸入空気量を調整します。そのためインマニ負圧がほとんどありません。

とはいっても(少なくともB58エンジンでは)スロットルが廃止されたわけではなく、低負荷やエンジン停止時の安定性向上、バルブトロニック故障時のフェイルセーフなどに用いられています。写真は暖気完了後のアイドリング状態。

エンジン回転 rpmスロットル開度 %インマニ絶対圧 kPa空気質量流量 kg/h(←計算体積 ℓ/s)
658394.6510.502.4
1030594.8514.003.2
1492894.5722.105.1
20441194.6730.107.0
30071494.7945.3010.5

シフトPポジションのままエンジン回転を変化させた状態をBimmerLinkで見ると上図の通りで、大気圧101.3kPaからたったのマイナス7kPaです。ブースト計のひと目盛りもありません。

一番右の計算体積(ℓ/s)は本題の洗浄剤を噴霧するときなんとなくイメージしやすいよう、空気質量流量(kg/h)から雑に変換したもの。間違ってたら指摘して下さい

B58エンジンのインマニ

空気は右下のスロットルを通りインマニから1−6番のポートに入ります。

インマニには3つ穴があり、洗浄剤を噴くのに比較的あんばいが良いのは穴A(チャコールキャニスター)です。気化したガソリンがまんべんなく行き渡る位置なのでしょう。ただ内部の水冷インタークーラーが近すぎて、ノズル噴霧する場合はどの向きで行うか難しいところ。

穴B(ブローバイ)・穴C(圧力・温度センサー)はポートに近すぎ、器具を差し込む場合も始動中は吸い込まれる可能性があります。

インマニ透視図
穴Aから6番方向
補強の支柱
フィン

ちなみにここの冷却水はエンジン用とは別のラジエターで冷やされています。

どう洗浄剤を噴霧するか

超音波で洗浄剤をミストにするのはいろいろ危険

超音波ミストメーカー($2)でRECSやエンジンリフレッシュを霧にして穴Aにチューブで導けば全気筒が勝手に吸ってくれるのではと考えましたが、容器などブチルセロソルブに耐える素材のテストが必要です。そしてブチルセロソルブのミストは特に危険なので、防毒マスクなどご近所さんには見せられない装備で挑まねばなりません。

いろいろまんどくさいのでこの方式は見送ります。

エンジンリフレッシュを改良する

エンジンリフレッシュの仕組みを使うのが筋がよさそうです。ただホースノズルをインマニの大きな穴にそのまま突っ込むだけでは有毒なミストが放出されかねませんし、全気筒には行き渡りません。

そのため耐薬品素材製アダプターの準備と、ノズルの改良を行います。

PITWORKエンジンリフレッシュの仕組み

エンジンリフレッシュの表示成分はブチルセロソルブとジメチルエーテルで、前車は洗浄、後者は噴射剤・燃料(オクタン価98)という感じでしょうか。表示内容量は420mlです。データシート(SDS)未入手のため詳しいところは不明。

エンジンリフレッシュは近所の部品商やヤフオクなどで本体・ホースが入手できます。1セット2,000えん程度。ホースは思いのほか安く、柔軟性があり、後述の特殊加工部分をカットしても160cmあるので、他にもいろんなスプレー用途に使えます。内径約1.5mm

本体ノズル部はちょっと変わった形で、レバーを押し込むとそこで固定され噴霧され続ける仕組み。レバーを無理に上げれば、有害成分を一瞬吹き出し停止します。

エンジンリフレッシュのキモはこのホースです。写真上の部分で流量を絞り、先からは5方向に噴霧されます。

絞ってる部分を透かすとこんな感じ。ワイヤーを通した樹脂を吸引して作ったんでしょうか、なんかすごい知恵っぽいです。

先端の顕微鏡写真。ここも樹脂が詰められ小さな穴があります。

側面は斜めに細い穴が4つあります。白いすじがそれ。

エンジンリフレッシュのの噴射のあんばいをブレーキクリーナーで確認しました。うまいことできてますねえ。

噴射が一方向ならホースを曲げるなどして希望の方向に向けられますが、これでは無関係な部分を大量に濡らすので、今回の目論見には沿いません。

洗浄ノズルの製作

ホース

じゃまな(?)インタークーラーを気にしながら空気のキモチになって考え、穴Aから1番方向に少量、インマニ後方に大量噴霧することにしました。ミストは発射方向に移動しながらエンジンに吸われていくので、いいあんばいに全ポートに届くイメージです。

ホース改良。使わない噴射部分はカットし、赤い収縮チューブの一部も除去して動作確認用のブレーキクリーナーに刺さるようします。差し込み口を示すだけの収縮チューブは全部取っちゃっても構いません。

カットした先端を閉じるため、ヒートガンで200℃ぐらいにあぶり、透明になったところでつまんで回しながらひっぱっていきます。

0.3mmのドリルをピンバイスで縦に4カ所、反対側の少し内側に1カ所、穴あけしました。ドリルの入りがそのままミストの噴射方向になるので、あける前に多方向から確認してください。0.35mm以上の穴ではミストがいまいちでした。

インマニアダプター

穴Aに差し込むアダプターを、ブチルセロソルブに強いナイロン(ePA)フィラメントを使い、熱溶解積層型(FDM)3Dプリンターで製作しました。CoPAやUltraPAでもOK。ナイロンは結構難しい素材で、まず湿気が大敵。新品フィラメントでも半日ドライフルーツメーカーで乾燥させたら印刷成功率がぐっと上がったほどです。なおナイロン以外の素材は洗浄剤で溶けてとっても面倒なことになるかもしれません。

ナイロン材は収縮が大きいようで、径15mmの穴Aに15.6mm設計のアダプターがちょうどという現物合わせでできています。同様にホース穴もサイズあわせが難しかったので押さえ込むパーツもつくりました。いろいろあわない場合は縮小印刷するなどしてください。ホース押さえを使わず固定する場合は難接着材料用接着剤PPXが使用可能。

3Dデータは以下でダウンロードできます。

試射

なかなかよいミストができました。

使用前にもアダプターに組み込んだ状態で同様に噴射角度調整をしておきます。

洗浄

噴霧前に暖気。温度が高くなることで洗浄効果が上がるようです。

結果的には洗浄中も特に臭いは気になりませんでしたが、排気の方向に気をつけ駐車しておきます。

エンジンを止め、穴Aにささってるホースを外します。ホースには念のためウェスを結んでおきました。

3Dプリントしたアダプターを穴Aに差し込みます。エンジン前方のベルトにホースが絡まないよう注意してください。缶は立てて使用します

洗浄作業中に缶をエンジンルーム内のすきまに立てておいたら熱でガスの方が多く出たのか、通常20分ぐらいかかるらしいところ10分で噴霧が“いったん”終わっちゃいました。動画の通り改良ノズルで噴霧量は減ってるにも関わらずです。なので缶は温まらない場所に置く方が良さげ。いずれ行う2回目のとき再確認します。

エンジンをかけたあと噴射開始。エンジン回転の変動が少しあった後はいたって普通のアイドリングでした。

前述の表ではアイドリング時の吸入空気量は毎秒2.4リットルで、まあ充分な気もしますが、もっと空気を入れミストの流れを変えたい気分になることもあるでしょう。そんな時にはいい感じの棒を電動シートでアクセルペダルに押しつけ、前後操作でエンジン回転を調整してください。ちなみにこれはボンネットを立てる棒。

先の通り思いのほか早く終了した空缶のレバーを外しておいたら(隙間からの噴射に注意)、しばらく後に缶を持ったところちゃぽちゃぽしてました。弱いながら噴霧も復活です。それからはレバーを押さえないと排出されませんでしたが、なんとか使い切れました。通常使用ではそうはならないでしょうが要注意ですね。

で、全て元に戻しアクセルを踏み込みましたが白煙は出ませんでした。

洗浄剤の浸透を期待してエンジンオフで数時間放置し、インタークーラーのフィンに残ってると思う薬剤を全開走行で吐き出させました。このあたりはお好みで。

洗浄確認

ポート側から

この記事を書きながら、穴Cから3番のバルブが見えそうだと気付きました。つまり洗浄作業後です。トンマですね。

走行2.5万kmエンジンの3番後側(っていうの?)のバルブはだいぶきれいで、かさの切削痕も見えます。最初から汚れてなかったもよう。

前側はバルブ・ポートともばっちいですね。

アップにするとカーボンが剥がれたようなあとがありました。

スコープの先端で軽く突っついてみたところ剥がれました。引き抜いたスコープに付いたものはねっとりしており、洗浄剤が柔らかくしてくれたのかもしれません。

5日後はさらにきれいになっていました。かさに切削痕が現れ、軸もわりとつるんとしています。

今回の2方向噴射ではノズルを向けていないこの3番とかに洗浄剤が届くか不安でした。使用後の確認とはいえ、思いのほかなんとなく効果があったような妄想ができました。

なお同じ気筒でもバルブの汚れ方が異なっていたのは、燃焼効率を上げる渦流をつくるため、バルブトロニックが低負荷時のバルブストローク量に差を付けてるからのようです。きれいな方は街乗り域ではほとんど開いておらず、今回の方法では洗浄できないという事でもあります。まあ汚れてないからいいんですけど。

燃焼室側から

3ヶ月前
5日後

本作業の3ヶ月前に(別の目的で)撮影した1番の燃焼室と、作業5日後のもの。写真下側の吸気バルブの縁や当たり面がなどが少しきれいになっていることがわかりますね。

思いのほか効果がある

最初にアダプターとノズルを準備する手間はありますが、作業自体は簡単で思いのほか効果があるので、年に1回ぐらい行うといいかもしれません。注入した洗浄剤や汚れはほぼ排出されと思いますが、作業後のオイル交換は早めにしておいた方がベター。

ちなみに運転しての違いは全くわかりませんでした。

そうそう。これとは別に、単純計算で1回400えん以下のAZ FCR-062 燃料添加剤を以前より投入しています。そういった日々のケアも壁面汚れの防止には多少貢献すると思います。

[その2] へつづく。